『那由のさいしょ』

「裕太おにーちゃん、こんにちはーっ」
 家のドアを開けると、那由がとたたっと走りより裕太の胴に抱きついてきたので、再会を祝いわしゃわしゃと頭を撫でてやった。長期連休の最初の昼に久々に我が家へと遊びに来た那由は、相変わらず女の子みたいだった。紛らわしい外見と名前をしているが、これでもれっきとした中学生男子なのである。中性的な顔つきに、細い肩に、肩まで伸びたくせ毛。幼い容貌は小学生と間違いかねないほどだ。
 那由は休みを利用してとなり町から一人でおれの家に遊びに来たのだった。どうやら、裕太になついてしまったようなのだった。三年越しの再会がよほど嬉しいのか、裕太の腰にまとわりついてはしゃいでいる。ういやつだ。
 とりあえず中に上がらせ、カルピスなどふるまってやる。この土日は親がおらず、那由との二人きりになる。
 
 一緒にゲームを遊んだり漫画を読んだりして遊んでいると、あっという間に日は暮れた。
 夜、布団で寝ていると那由がこっちの布団に入ってきた。寒いのだろうか? それとも、トイレか? そうではなかった。
「おにいちゃん……」
 那由は切なげな声を出す。そして裕太にぴったりと密着し、体を擦り寄せてきた。すりすり。
 ……裕太のふとももに、何かが当たっていた。ふにふにと。
「……那由」

 裕太は那由を布団から追い出し、側に立たせた。薄暗がりの中、恥ずかしそうに顔を赤らめる那由の水色のパジャマの股間は盛り上がっていた。別に驚きはしなかった。それが何の理由もなくふいに元気になってしまうことがあるというのを、彼自身よく知っていたからである。
「しょうがないな」
 裕太は那由のズボンに手をかけた。
「だ、だめ」
「まあまあ、男同士だろ?」
 那由がズボンを上から手で抑えるが、そんな抵抗をものともせず裕太は下のブリーフごとズボンを下ろさせた。少年の小振りな男性器が顕になる。幼いながらもすっかり勃起したそれが、股の間で揺れていた。

「どうせロクに自分でしたこともないんだろ。任せておけって」
 裕太は寝そべったままの体勢で、いつも自分でしているように、慣れた手つきで那由のものをいじり始めた。昔社会科見学でさせられた牛の乳搾りを思い出す。リズミカルに手を前後させると、それに合わせて那由が喘ぎ声を上げるのが面白い。
 いたずら心が芽生え、おもむろに手を止める。軽く戸惑った那由に、裕太は問いかける。
「……嫌ならやめるけど?」
「ううん」
 那由は小さく首を横に降った。その回答に満足した裕太は那由への責めを再開する。刺激のペースが早くなるに従い、那由の反応も大きくなる。

「だめ、で、出ちゃう……!」
 裕太は素早く脇のティッシュ箱から二枚ほど引き抜き、那由の射精を寸前で受け止めた。薄紙越しに精液の温かい感触が伝わる。分泌物で汚れた亀頭も優しく拭きとってやる。果てた那由は、荒い息をつきながらその場に尻餅をついた。
 ティッシュを広げてみると、ほかほかとしたしぼりたてのミルクが染み込んでいた。思えば、他人のものを扱いたのも他人の精液を見るのも裕太ははじめてである。純粋に興味が湧いた裕太は、さりげない動きでそれを指にとり、口に含んだ。
「あっ……」
 那由が小さく叫ぶ。放出されたばかりで匂いの薄いそれは、少ししょっぱいだけだった。那由が目を見開いて驚愕しているのに気づき、ばつが悪くなる。
「お、親には言うなよ」
「う、うん……」
 何か言いたそうにしている那由に背を向け、裕太は布団をかぶった。やがて那由もそれに倣う。

 *

「おにいちゃん、おにいちゃん……」
 なんだか気持ちの悪い夢を見ていた裕太は、那由の声で目覚めた。どこかから雀のさえずりが聴こえてくるので朝なのだろう。あくび混じりに身体を起こす。そこで裕太は、なんだか様子がおかしいことに気づく。
 自分がかぶっていた掛け布団と枕がないのだ。そして、空気の匂いが、微妙に違う。寝ぼけ眼でぼんやりとした視界のなか、裕太はまだ自分が夢のなかにいるのではないかと錯覚していた。那由の姿も見えない。近くにいるはずなのに。
 水色の布のような材質の柱が、裕太から数歩の位置に門のごとく立っていた。とりあえず近づいて、ぺたぺたと触ってみる。見た目よりもがっしりとしているのが、手のひら越しに伝わってくる。

「おにいちゃん、ぼくここだよ」
 なぜか探している那由の声が上から聞こえてくる。首を真上へと向けてみると果たして、巨大な那由の顔が裕太を覗き込んでいた。
「うわっ!」
 驚いて裕太は尻餅をつく。おかしい。那由の顔は遠く離れているはずなのに、どうしてこんなに大きく見えるのだろうか。遠近感がおかしくなっているのか、それとも悪い夢が継続しているのか?
 じっと見下ろしてくる那由がなんだか怖く思えてきて、思わず先ほどの水色の門の陰へと逃げこんでしまう。布に包まれた柱はそれぞれ内側へと傾いていて、頭上十メートルほどのところで合流していた。この奇妙なオブジェを、どういうわけか裕太はどこかで見たような気がしていた。
「もう……そんなところに隠れないでよ」
 そうしていると、裕太のいる空間へと何か巨大な物体が近づいてきた。
 にわかには信じがたいことだったが、肌色のそれは巨大な手だった。指一本が木の幹ほどにも太い。中指から小指がスクラムを組んで折れ曲がっており、親指と人差し指が槍のように裕太のほうを向いていた。

 あらがうことも出来ず、裕太は巨大な指に寝間着の襟をつままれ、門の下から引き摺り出され、持ち上げられる。どんどん白い地面が遠ざかっていく。もがいてみるが、解放されるどころか襟を持たれているので首が締まるだけに終わった。
「暴れないでって」
 引っ張り出された先には那由の巨大な顔がより大きなものとなって存在していた。裕太とはほんの数メートルの距離だ。
「うそだろ」
 数十メートルもの高さまで持ち上げられて、ようやく裕太は理解する。今まで自分が隠れていた水色のオブジェはパジャマに包まれた那由の膝立ちの下半身。自分をつまみ上げている巨大な指は那由の右手のもの。あまりにも大きすぎて、それらを同一の人物のものと考えられなかったのだった。それもしかたないことだ。一晩経ったら小さな少年が自分の数十倍にも巨大になっているなんて、想像もできないだろうから。

「何でそんなに大きくなってるんだよ!」
「そんなに怒鳴り立てなくても聞こえてるって」
 狼狽し興奮する裕太とは対照的に、那由の表情はどこか醒めたものだった。
「ぼくが大きくなったんじゃなくて、おにいちゃんが小さくなったんだよ。朝起きたら」
「……は?」
「証拠を見せようか」
 全身にGがかかり、地面がより遠くになる。那由が立ち上がったのだとわかった。裕太をつまんでいた指が離され、すぐ下に添えられていた掌の上に裕太の身体が落とされる。ほどなくして揺れが始まり、周囲の景色が高速で移動し始めている。那由が歩き始めたのだ。

 アニメや漫画などで人間が巨大ロボの肩や手に乗って悠々と移動するシーンがあるが、それは虚構なのだと裕太は思い知らされた。揺れがひどすぎるのである。しかも数十メートルの高さなのだ。落ち着いてなど到底いられず、必死に那由の手の凹凸にしがみついていた。裕太はうつぶせの体勢で、那由の顔を見上げる。心なしか、口が笑みの形になっていた。
「ほら、前見て」
 そうこうしているうちに那由が歩みを止め、裕太に顔を上げるよう促す。
 正面には鏡があった。それも特大の。上下を見ると、それが見慣れた洗面台のものだとわかる。縮尺が狂っているだけで。
 鏡にはパジャマ姿の那由が映っていた。お腹のあたりに添えられた手に、なにか小さい人形のようなものが乗っている。うずくまった姿が、それを余計に小さく見せていた。
 その小さなものが自分であることを認めるのに、裕太は数秒を要した。

 *

 那由は、小さくなってしまった裕太の代わりに朝ごはんを用意した。
 裕太は自分の身長ほどもあるカップが並ぶ、グラウンドのように広大なちゃぶ台の上に置かれた。その背後には那由が着席している。見下ろされているというのはどうにも落ち着かない状況だ。目の前には、教室のような広さのトーストが乗った皿がある。
「はい、おにいちゃん」
 那由はトーストの端っこをちぎり、裕太の前に差し出した。焼きたてのそれは熱々で、うかつに触ってしまえばやけどしてしまいそうだ。岩のように大きな欠片の前に逡巡しつつも、空腹な裕太はそれにかじりついた。

 しかし、どんなに顎に力を入れても裕太はトーストのかけらを噛み切ることはできなかった。縮小したことで、裕太の力は虫以下になってしまっていることを実感せざるを得なかった。トーストを掴む掌が熱くなり、熱気で全身にびっしょりと汗をかく。
 指先ほどの小さなトーストのかけらと格闘しているのを那由はしばらく眺めていたが、しびれを切らしたのかそのかけらをひょいとつまみ上げ、口に放り込んだ。もごもごと数秒咀嚼し、どろどろになったそれを掌の上に吐き出し、あっけにとられている裕太の目の前に差し出した。

「ほら、これならお兄ちゃんでも食べられるよ」
 頭いいでしょ褒めて、とでも言いたげな、那由の満面の笑顔だった。歯が欠けてしまいそうなほど頑丈だったトーストはすっかり形をなくし、どろどろに柔らかくなっている。まるで溶岩のようだった。熱く香ばしいトーストの香りは那由の唾液の臭いでずいぶんと薄まっている。
「お、お前が口つけたものなんて食えねえよ」
 裕太はトーストの成れの果てと那由の笑顔を何度も見比べて、困惑といらだちが混ざったような表情で言った。
「えー、でもおにいちゃんこうしないと食べられないでしょ? お腹空いてるよね?」
 どろどろの塊を乗せた掌をずいと突き出され、裕太はつい叫んでしまう。
「や、やめろよ! 汚い!」
「き、きたな……」
 那由の顔が曇る。裕太が自分が失言をしたと後悔するヒマもなく、掌は持ち上がり、那由がそれをぺろりと平らげてしまった。
「わかったよーだ。おにいちゃんにご飯はあげないから、我慢してよね」
 そう言い放つと、那由は自分のトーストをぱくぱくとおいしそうに食べ始めた。裕太はその様子を見上げながら、自力では食事にありつくことも、このちゃぶ台から降りることも不可能だということにも今更気づき始めていた。

 *

 昼過ぎになった。
 裕太と那由は、畳敷きの寝室で適当に時間を過ごしていた。しかし、二人の間にはつねに二メートル(裕太にとっては五十メートル)程度の距離がおかれていた。裕太は巨人と化した裕太が恐ろしくて近づきにくかったし、那由は那由で小さくなってしまった裕太にどう接していいのかわからなかったのである。那由は時折横目でチラチラと裕太の方を見やりながら勝手に借りた漫画本を読んで過ごしていたが、裕太は畳の上で横になり、ずいぶんと遠くなってしまった天井をぼーっと眺めていた。ゲームも本も使えない裕太は、時間を潰す手段がないのだ。空腹のため、あまりエネルギーを使いたくなかったというのもある。
「お茶飲んでこよ」
 ふいに那由がそうつぶやき、立ち上がる。那由はごく自然に、寝室の出口と自分の間に寝転がる裕太を跨ぎ越そうとした。
 突如自分の頭上に現れた巨大な那由――の素足に、裕太は恐怖した。なにしろ、その足裏の面積ときたら自分が寝転がって余りある広さがあるのだ。

「う、うわあああっ!」
「あっ、えっ」
 裕太の叫びに那由は驚き、持ち上げていた右足をしばらくふらふらと彷徨わせた後、安定を失い勢いよく着地した。裕太のすぐ側へと。
 たまらないのは裕太である。彼にとって一メートルほどすぐ横にトラックのような大きさの素足が着地したのだ。着地の激しい振動にガクガクと全身が揺さぶられる。くらくらしながらも身体を起こし、数秒遅れて心臓が激しく爆ぜるように胸を叩く。もう少し足がずれていたら、自分は……。
「お、おい、気を付けろよ!」
「ご、ごめんおにいちゃん。大丈夫だった……?」
 那由が裕太の左右に両手をつき、屈み込むように顔を近づけてくる。蛍光灯の灯りが那由の身体に遮られ、裕太の周囲は暗くなる。
「お前ってやつは、もう少し自分の大きさを自覚しろよ! もう少しで、ふみ、踏み潰されるところだったんだぞ!」
 自分の震えを隠すように裕太は怒声を張り上げる。
 ぼくが大きいんじゃなくて、おにいちゃんが小さいだけだよ。そう那由は言いかけたが、やめた。

「ごめん、ほんとごめんね」
「ごめんで済むかよ! もっと誠意を込めろ!」
 ……だが、那由は怒りも感じ始めていた。確かに自分も悪いが、畳のど真ん中で寝ていた裕太にも非があるのではないだろうか。なぜ一方的に責められなければいけないんだろう。
 那由がしょげていると見て、調子にのってさらに喚き立てる裕太をよく観察すると、握った右拳を頭上に振り上げていた。那由は思わず吹き出しそうになってしまう。それは裕太が怒った時のクセだったのだが、その腕で何を殴ろうというのだろうか。枝よりも細い腕で。
 そう考え始めると、那由はおかしくてしょうがなくなってしまう。裕太に気を遣う必要なんて、ないのだった。

 那由は裕太経と素早く指を伸ばす。慣れた調子で裕太をつまみ上げ、立ち上がる。
「おい、こら何すんだ! 降ろせよ!」
「……はあ、うるさいなあ」
 裕太は那由の、今までとは全く違う無表情な顔を見て戦慄し、自分の行いを一瞬で後悔したが遅かった。
 那由は裕太をつまんだまま、部屋の中央の蛍光灯の下へ近づく。目の前で蛍光灯の紐が垂れ下がっている。那由はその紐に、裕太をつまんだ指を近づける。

「ちゃんとつかまってね」
 その言葉と共に、那由は裕太から指を離した。裕太は必死に蛍光灯の紐の先へとしがみつき、ぶら下がる。紐の先は那由の胸の高さぐらいだった。
「な、何を……」
「そこなら僕に踏まれることはないでしょ?」
 那由はおかしそうに笑い、紐の先の裕太を指先でちょんちょんとつつく。そのたびに裕太は、絶叫マシーンもかくやという勢いで激しく振り回された。鐘つき棒のような那由の指に突かれた場所は、服の下であざになっていた。
 絶叫マシーンと違うところは、紐から手を離してしまえば終わってしまうというところである。そしてその時は遠くなさそうだった。那由は裕太が力尽き落ちた場合はちゃんとキャッチしてあげるつもりだったのだが、そんなことを知るはずもない裕太はただひたすら恐怖していた。

「がおー、落ちたら食べちゃうぞー!」
 那由は屈みこみ、振り子運動を続ける裕太の真下で口を開けたり開いたりした。裕太が落ちたら、ちょうど那由の口の中へと飛び込んでしまうだろう。もちろん、食べるつもりなどなかった。
 というのはあくまで那由の考えで、裕太には那由の口が地獄への門としか映らなかった。落ちたら死ぬ、本気で裕太はそう認識していた。那由に食べられて。
 しとしとしとしと。
 恐怖でキャパシティオーバーした裕太が失禁してしまうのも、仕方のない話だった。
「あはは、おにいちゃんおもらししてる。恥ずかしい〜。ほんとうに高校生なの?」
 顔や口の中に裕太の漏らした尿が飛んできたが、文字通り雀の涙ほどでしかなかったので那由は気にもとめなかった。

 那由は裕太を、紐から自分の掌の上へと下ろしてやった。
「ほら、下脱いでよ。それぐらいできるよね、ゆーた君?」
 裕太は恥ずかしそうに汚れたズボンとパンツを脱ぎ、裸の下半身が露わになる。それを那由はウェットティッシュで丁寧に掃除してあげた。
 いつのまにか、裕太が那由の指にしがみついて泣いていた。あまりにも自分が情けなかったのか、那由が怖がらせすぎたのか。両方かもしれない。
「ごめんね。もうひどいことしないから」
 那由は少し反省して、指で裕太の頭を撫でて謝った。
「風邪ひいちゃうね。お風呂、入っとく?」

 *

 二人は脱衣所へと移動した。那由は洗面台にすでに脱がされた裕太を置き、衣服を脱ぎはじめた。ビルの多いがまるごと取り払われるような脱衣を、裕太はぼーっと眺めていた。シャツが洗濯カゴへと放り捨てられ、ズボンとパンツが一緒に降ろされ足ふきマットの上へと落ち、那由の健康的な瑞々しい肢体が露わになる。そんな中裕太はつい、那由の股間を凝視してしまっていた。ぷっくりとした睾丸に、ちんまりとしたかわいらしい性器が生えている。毛は生えていなかった。
「ちょっとおにいちゃん、どこ見てるのさえっち」
 たちまち裕太は那由の手にすくいあげられ、那由の目の前まで運ばれてしまうのだが、移動の勢いに裕太は足を滑らせ、まっさかさまに転落してしまう。
「うわーっ!」
 ビルのような高さから転落した裕太だが、全身を打ち付けただけで大した怪我はしなかった。汗と少年の暖かい匂いが周囲に漂っている。裕太は知らず知らずのうちに、自分のものを大きくしていた。
 那由は、自分が下ろしたパンツの中で恍惚としている裕太を見て、このまま履いてしまおうかと思った。もしくは、パンツにくるんでカゴに放り込んでしまおうかとも。しかし、それはどちらもまだ時期尚早だった。

 *

 那由は、裕太を自分の手の上で丁寧に洗ってあげた。
「うあっ!」
「あはっ」
 くちくち、くちくち。泡だらけの裕太の股間で微かに指を動かすだけで、裕太の体がびくびくと震え、喘ぎ声を上げる。それが那由には面白くてたまらない。お腹や性器の上だけではなくて、睾丸の裏からお尻にかけてまで丁寧にマッサージする。裕太は那由の巨大な指へ倒れこむようにしてしがみつく。
「や、やめて、那由、おかし、おかしくなっちゃう……!」
 快感に震える裕太を、那由は笑いの形に歪んだ目で見下ろしている。裕太は恥ずかしさに耐えられなかった。一回りも年下の、弟のように思っていた少年の掌の上で、おもちゃのように良いようにされて、しかもそれを自分が喜んでいるだなんて。悪い夢でも見ているのではないだろうか?
「だーめ」
 くにゅくにゅっ。哀願の表情を浮かべる裕太を弄ぶ指の動きは、さらに強められる。
「あ、あああっ!」
 まったく経験したことのないような刺激が全身を貫き、内側から燃え上がるような感覚を裕太は覚える。少女のような端正な顔が、両手を広げたほどもある大きさの二つの目で裕太の痴態を冷酷に観察していた。
「……出しちゃいなよ、ね」
 浴室に響く、嗜虐的な抑揚の声。
「……!」
 そして裕太は絶頂に至り、那由の指に射精した。
 那由は指に付着した精液を舐めとり、飲み込む。たいして味は感じなかった。那由は拍子抜けしたが、石鹸の泡に混ざってわからなくなってしまう程度の量でしかないのだから、当然な話である。
 手の上でぐったりしている裕太が体力回復するのを少しの間待ってから、泡だらけの彼を自分の股間へと降ろす。
「次はおにいちゃんがぼくを洗う番だよ」

 裕太の両側には、曲線を描く太ももが監獄の塀のようにそびえ立っていた。目の前には、那由の男性の象徴がぐったりと存在している。いかに未成熟といえど、自分の身長と同程度のそれは不気味な存在感を放つ。裕太が躊躇していると、那由の手が降りてきて尻をつつき、自分の股間へと進ませようとする。手に残っていた泡が裕太の尻に尻尾のように付着した。
 全身でそれを洗え、ということらしい。
「じ、自分で洗え、よ……」
 理性と勇気を総動員する。歯向かったと取られてもおかしくない発言だった。ビルのように巨大な少年に対してそれは自殺行為だったかもしれない。だが、那由は怒らない。
「なんで?」
「そんなとこ、ひとに洗わせて、恥ずかしく無いのかよ……どアップだぞ」
「男同士でしょ? 気にしないよ」
 はぁ、と失望したように那由は嘆息する。
「嫌? いいよ。……でも、ぼくもおにいちゃんを『洗わない』よ」
 裕太の後ろで壁にしていた手の指同士を、彼の頭上でこれ見よがしにこすり合わせる。泡が裕太の頭の上へと落ちた。ごくりと、つばを鳴らした。
「洗ってくれるなら、また『ご褒美』あげるよ」
 脳の配線が融解しはじめていた。放出したばかりで萎えていた裕太の一物が再び元気を取り戻していた。
 
 裕太は自ら那由の男性器へと近づく。未だ洗われていないそれは、近づくにつれ脱衣所で嗅いだような少年の甘ったるい匂いが強くなっていく。まるで巨大なミミズの化物のようなそれが、小さな男の子の体の一部分でしか無いということを、裕太はいまだに受け入れかねている。
 床に着いている玉を踏みつけて足場にし、両手で抱えるほどもある那由の竿に全身で抱きつき、こすりつけることで洗おうとする。この作業は想像以上に重労働だった。また、那由の全身の代謝で体感気温自体も高い。汗が流れ、裕太の目を刺す。
 そうしているうちに、抱きついている那由のものがだんだん熱くなっていることに気づいた。それだけではない。ゆっくりと裕太の体が、肉棒に持ち上げられている。――勃起を始めたのだ。先端を覆っていた包皮が、ぺりぺりと音を立てて剥け始め、那由のピンク色の亀頭が半分だけ姿を表した。先端に顔を近づけた格好で抱きついていた裕太は、より強烈になって襲いかかる生臭い牡の匂いにむせこみそうになった。女の子のような顔の那由が、こんなものを秘めていたなんて想像も出来なかった。それとも、自分が小さくなりすぎただけなのだろうか?
「あーあ。おにいちゃん、ぼくのおちんちんより小さくなっちゃってるんだね」
 勃起が完了し、裕太は上を向いた那由の竿に地上三メートル相当の位置でしがみつき続けることとなった。血液が通り、すっかり熱くなってしまった肉棒は、こうしてしがみついているだけでやけどしてしまいそうなほどだ。それに、ゆらゆらと揺れるこの不安定な足場では満足に動くこともできない。

「ちゃんと動いてよね」
 そのままの体勢で途方にくれている裕太を暗い影が覆う。見上げると那由の泡だらけの巨大な手が迫ってきていた。那由は、裕太の体ごと自分の陰茎を掴む。裕太の上半身は完全に手の中に隠れ、両足がぴょこんとはみ出ているだけだ。那由はつかんだまま手を上下に動かし、なすり始める。全身を押し付けられ、那由のペニスにキスする形になっていた裕太はたまったものではない。手足をムチャクチャに動かし那由の手から逃れようとするが、那由に性的な快感を覚えさせる程度でしかなかった。裕太の体は那由の手とともにだんだん亀頭へとスライドしていき、アンモニア臭のするカウパー液が裕太の体へとまとわりつき、少し苦い味のするそれを口に入れてしまう。鼻を刺す精臭の匂いはますます強くなる。ぬちゃぬちゃ、ぬちゃぬちゃ。裕太の全身の五感は、那由のペニスに犯されているといっても良かった。密閉されていて暑苦しく不快な空間なのに、那由の柱のような陰茎と全身がこすれ合う感覚が快感で仕方なかった。
 那由の手がしごくペースが最高潮に達した頃、彼は射精した。吹き出した精液は手へと伝わり、中の裕太の全身を汚していく。
「はぁ……はぁ」
 手を開くと、そこには全身が白濁液に汚れた哀れな小人の姿があった。那由はぐったりとしている裕太を萎えた自身のペニスの前へと置く。
「きれいにしなよ。舌でね。昨日みたいに」

 裕太は泣きそうな惨めな顔で、亀頭に付着している精液や恥垢を舐めとっていった。今日何も口にしていなかった裕太の胃は那由のもので満たされ、数十分後には腹をぽっこりとふくらませ、吐きそうな表情で浴室のタイルの上に横たわる裕太の姿があった。
「おつかれさま。そんな顔、しないでよ」
 那由は微笑み、ぬるいお湯で改めて裕太の全身を流してあげた。
「だって、気持よかったでしょう?」
 裕太は、その問いに微かに首を動かした。

 *

「ごはん、食べようよ」
 裕太が世間的に行方不明扱いになって三日が経っていた。夕食の席で、那由はちゃぶ台の上の裕太に言った。
「食うよ。……だから、くれよ」
「うん、いいよ」
 どろどろに咀嚼された白米を掌に吐き出し、顔を赤くする裕太の前へ出した。裕太は恐る恐る掌へと乗り、犬のように口をつけて食べ始めた。ペースト状の白米が裕太の胃の奥へと流し込まれていく。普通の大きさだった頃の食事より、どういうわけかよほど美味に感じられた。
 自分の掌の上でがつがつと食事を貪る裕太の姿を、那由は慈愛の眼差しで見下ろしていた。これからはずっと、裕太と一緒にいられるのだ。

(了)
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