『那由のひみつ』

 最後に飲んだビールが、すこし奇妙な味がしたことを気のせいで済ませてしまったのが、栄一の運命を決めた。

 *

 日付も変わろうかという夜更けに、一組の男女がホテルへと入っていく。
 磨りガラスのフロントで鍵を受け取り、指定された部屋へと向かう。鍵をねじ込み、入った部屋は最低限の家具だけが並ぶ簡素なものだった。目を引くものといえば、枕が二つ並べられた大きなベッドぐらいだ。
「二人でこういうところに入るって、どきどきするねっ」
 少女――那由が、荷物を部屋の隅へ置き、ふかふかのベッドに飛び込む。その勢いで彼女のフレアスカートがあおられ、黒いニーハイソックスに包まれた肉付きのよい脚をのぞかせる。健康的な四肢とは裏腹に、年頃の女性と比べてもあまりに胸に膨らみがなかった。が、それは少年にとっては重要なことではない。
(ついに来たぞ、この日が!)
 少年――栄一はそのとなりへと座りながら、内心ガッツポーズを決めていた。なにしろ、那由とは彼氏と彼女の関係になってこのかた三ヶ月、ずっと身体を重ねたことがなかったのだ。
「……なあ、那由。ひょっとしてエッチなのって嫌いなのか?」
 そんなはずはないと言いながら思った。今までデートだって何度もしてきた。キスもした。なのに、腰の下に手を伸ばそうとすると決まって那由はその手をはたくのだ。
「そんなことはないよ。でもボクね、栄一くんに打ち明けなきゃいけないことがあるんだ」
 来た。栄一は身をこわばらせる。性病か? 妊娠しているのか? 想定できるかぎりの想像をし、覚悟をする。
「ボクね……本当は」
 腰掛けていたベッドから立ち上がり、栄一の前に立つ。そして、スカートの裾の両端をつまみ、たくしあげる。栄一は那由の初めて見る下着に息を飲む。ニーハイソックスと下着の間からはみ出した柔らかそうな肉。白いショーツ……がぴっちりと覆う股間には、那由のような少女にはありえない盛り上がりが。
「おとこのこなんだ」

「……はぁ?」
 あまりにも斜め上すぎる秘密に、数秒間硬直してやっと出た声がそれだった。
「ひゃんっ」
 目の前のそれに手を伸ばして触ってみる。親しみのある感触と、反応して身を震わせる那由から鑑みるに、これがニセモノであるという可能性もなさそうだった。胸は不自然なほど全くなく少年のように平坦なものだったのだが、それを服の上から見破ることは栄一には不可能だった。
「……冗談だろ」
「嘘でも、冗談でもないよ。おっぱいだって、ないでしょ?」
 那由は笑顔を作る。それにはどこか諦めも含まれていた。
「栄一くんは女の子のほうが好きだと思ったから、女装して近づいたの。でも、ずっと隠し続けるわけにもいかないんだよね。栄一くんがスカートの奥のほうをたまにじっと見てるの、気付いてたから」
 いつのまにか栄一は立ち上がっていた。詰め寄るのではなく、離れるために。
「ねえ。ボクがおとこのこでも、栄一くんは、ボクのこと好きで居てくれる?」
 そりゃ無理だよ。栄一は思った。おれは女の那由が好きだったんだ。男の愛し方なんて知らない。徐々に事態を飲み込んできた栄一の心のなかは、裏切られた困惑でいっぱいだった。
 その胸中が表情に顕れていたのか、那由は悲しそうにうつむく。
「……うん。そうだよね。ボクがあさはかだったよね。……でも、エッチはさせてもらうよ」

「……え?」
「そろそろ、効いてくるんじゃないかな?」
「何だって」
 たしかに、体の変調を感じる。なぜだ。まさか、トイレに立ったあのときに? 慌ててドアまで逃げ、ノブをひねって開けようとするがびくともしない。それを那由は黙って見つめていた。
「無駄だよ。こっちの精算機でお金を払わない限り、鍵は開かないんだ」
 那由が栄一へと近づく。頭ひとつ小さかったはずの那由は、いまや目線が栄一と同じだ。那由が大きくなっているのか? ――いや、違う。
「逃さないよ」

 *

「すっかり、かわいくなっちゃったね」
 人形ほどの大きさになった栄一を、那由は抱え上げ、ベッドの上へと運ぶ。
 膝立ちになってスカートをまくり上げる。そこから見える下着には見間違いでも幻でもなんでもなく、男性特有の膨らみがあった。先ほどと違うのは、それが身長ほどの高さにある点と、那由の興奮から膨らみが大きくなっているということだった。
「栄一、ずっとここにいたずらしたかったんだよね? 今夜は気持ちよくさせてもらうよぉ」
 ギシ、ギシとマットレスをきしませながら栄一へと迫る。今の栄一の大きさでは、那由の作るマットレスの凹みに足を外られてしまいそうなほどだ。
「ううっ」
 栄一はベッドの上を後退り続けて、とうとうベッドの端まで来てしまった。
「落ちちゃうよ」
 那由は左手を栄一の背後に回し、転落を防ぐ。と同時にそれは、栄一を逃さないためのものでもあった。
 スパッツにのしかかられる。那由の性器が下着に作る膨らみの輪郭は、あきらかに勃起していることを示していた。先端がじっとりと湿っていて、強烈な精臭が漂う。先走っているのだ。
「ああっ、もう、我慢できない!」
 上気した様子の那由が、右手で下着をずり下ろす。
「ひっ……!」
 ショーツからまろび出た那由のペニスは、平均的なものよりもやや小さめで、栄一が通常サイズであったならかわいいとすら思えたかもしれない。だが、十センチほどの小人になった彼にとってそれは丸太のような直径だった。ショーツのなかに閉じ込められていたむんむんとした熱気と臭気が、栄一の周囲の不快指数を上げた。獲物を見つけた肉食獣のように鈴口からよだれを垂らしている。
「なめてよ」
 那由は身体を前にずらし、玉が栄一の真上に来るようにしてから、ゆっくりと腰を降ろしていく。ぷっくりとした、片方だけでバスケットボールのような大きさの肉のボールが、やわらかく栄一の顔にのしかかった。股間独特のつんとした汗の匂いが栄一の鼻孔を刺激する。
「舐めないと、どいてあげないよー」
 ふざけるな! 栄一は、せめてもの抵抗をと皮を噛もうとする。しかし、程良く張って弾力のある精巣には文字通り葉が立たなかった。何の痛痒も感じていなさそうな那由の様子に、栄一は諦めて舌を這わせる。
「んっ……ん」
 那由のよがる声がする。舐めている内に、玉が自分の上で膨張していくのがわかった。これだけ小さくされても、那由を感じさせられるのだと知ると、栄一はわずかに優越感を得る。だがそれも一瞬のことだった。
「ふふ。じゃあ、ご褒美をあげるね」
「うわっ!」
 那由が栄一の上からどき、そのすぐ前へと腰を下ろした。目の前に現れたのはいきり立ち、柱とも呼べる大きさになった那由の男性器だった。あまりの恐ろしさに、栄一は絶句してしまう。ペニスが勃起した時、獲物を前にすることなんてひとつしかないからだ。でも、まさか。その対象が自分だなんて! 自分が日夜妄想していたことの反対をされようとしている恐怖、栄一は戦慄する。
 怒張したそれに、栄一はなすすべもなく突き倒される。まるでそれ自身が意思を持つ生き物でもあるかのように、頭上でぶるんぶるんと陰茎が震えている。だが栄一を圧倒するそれは、膝立ちで栄一を見下ろす那由の体の一部分にすぎないのだ。
「ひあっ!」
 未体験の感触に栄一は体をよじる。白く滑らかな、だが栄一の脚よりも太い那由の人差し指が仰向けになった栄一のお尻の穴へ侵入したのだ。
「ぬ、抜いてっ、抜いてぇ〜っ!」
「ふふふ、なんだか言葉遣いが女の子みたいだよ、栄一」
 出したことはあっても入れたことのない穴を弄られ、栄一は青息吐息になる。那由は、指の腹で腸壁をぐりぐりといじると、ゆっくりと抜いた。そして、今度は勃起した一物を尻に押し当てる。照準を定めるかのように、ぐりぐりとその先端が右往左往する。
「歯を食いしばってね」

 ズッ!
「ぎぃっ?!」
 栄一の菊門を那由の男性自身が貫く。今度は先程のような『様子見』ではなく、容赦なくみちみちと音を立てて突き進んでいく。
「裂ける、裂けちゃうううっ!」
「ボクのって小さいから、栄一を小さくしないと釣り合わないんだよねえ。……んっ」
 栄一の体が、ペニスが突き刺さったままゆっくりと持ち上がっていく。やがて那由のモノが垂直にぴんと立ち、栄一はまるで指人形のような不恰好な姿になった。那由からでは見えなかったが、栄一の腹はぽっくりと性器の形に膨れていた。
「あはははっ、栄一がおちんちん人形になっちゃった」
 からからと笑う那由。栄一のお尻からは、つうっと一筋の血が那由のモノを伝って流れていった。栄一の処女は、童貞よりも先に那由に奪われた。
 那由は栄一のお腹をつまみ、手淫するようにそれごとペニスをしごく。遠目に見れば、那由がオナホールを使って一人遊びしているようにも見えるかもしれない。那由が使っているのは、オナホールではなくて小さくなった生きた人間なのだが。
「い、痛いいたい、痛いよおおっ」
「いい、いいよ、栄一っ! ねえ、どう、気持ちいい?」
「き、気持ちいいわけ、い、痛い、痛い、痛い! 破けるうううっ!」
 栄一は女の子のように、悲鳴とも嬌声ともつかない絶叫を上げる。
「ふうん、じゃあ元気になっちゃってるここはなんなのかなー?」
 那由は自身の我慢汁で濡れた指先を栄一の前に回し、そっと触る。
「……え、ええっ?」
 自分でも気がついていなかったが、栄一のモノはいつのまにかすっぱり勃起していた。
「うそ、だ」
 それは命の危機に瀕して、生殖本能が発揮された結果のことなだけかもしれなかった。とはいえ、それは大したことではなかった。お互いにとって。
「ぼくは那由のおちんちん人形にされてよがっちゃう変態くんです、って言えたら抜いてあげるよ!」
「だ、だれが、そんな、こと」
「ふうん」
 那由は栄一の腰を鷲掴みにして、軽く上下に揺する。それだけで哀れな小人は、嗚咽とともに大粒の涙を零す。
「それで?」
「言う、言うから抜いて! 抜いてください! ……ぼ、ぼくは、那由のおちんちん人形にされてよがっちゃう変態くんですぅぅっ!」
「うん、よく言えました」
 那由は満足気な笑みを浮かべ、栄一のものを潰さないように慎重につまみ、シュッシュッと器用にしごく。と同時に、栄一を貫く肉棒も上下させる。
「ああっ! ああああっ!」
 口から内臓が飛び出してしまいそうな激しい突き上げに、栄一は目を白黒させる。内側から破裂するような痛みと、巨大といえどきめ細やかな那由の指がもたらす性的な刺激の快楽から何がなにやらわからなくなって、目や鼻や穴という穴から涙や涎を、胃液をこぼしてよがっていた。
「出る、出る、出すよぉっ、栄一い!」
 ドクッ! ドクッ! ドクッ!
 那由の性器は波打つように脈動し、栄一の中に精を注ぎ込む。それに押し出されるように栄一も精を放出していたが、雀の涙ほどのそれは彼が受け止められず溢れた那由の大量のミルクに溶け、すっかりわからなくなった。

 *

 那由は、突き刺さりっぱなしだった栄一の身体を鷲掴みにしてそっと引き抜き、シーツの大地に降ろしてあげた。しかし、それで責めを終わらせるつもりは那由にはなかった。
 うつぶせの体勢で激しく息をすったり吐いたりしていた栄一の眼前に、なにか巨大なものが突きつけられた。自分の頭よりも大きい、縦に切れ目が入った丸い肉――那由の亀頭だ。先ほど絶頂に至ったばかりだというのに、まったく萎える気配がない。白濁した液体が残っており、漂うチーズのような臭いに鼻がおかしくなりそうだった。
「舐めて綺麗にしてよ」
 那由の巨大な手が再び伸び、強引に鈴口へ押し付けられキスをさせられる。口どころか、鼻すらも割れ目に埋まっていた。
 栄一は覚悟を決め、死刑を待つ囚人のような顔で口を開き、露出した亀頭に舌をあてがい、精液を舐めとる。
「……あ、甘い?」
 確かに那由の精液は栄一自身のものと同じで、生臭くてしかたのないものだった。だが、一度口に含んでみるとしょっぱいものの、奇妙にほの甘く、美味とすら言える味わいだった。あまりにも異常な体験をして感覚がおかしくなってしまっただけかもしれなかったが、それは彼にとっての事実にほかならなかった。
 二度目はおそるおそる。三度目にはすでに夢中になって、こびりついていた恥垢やミルクをも舐めとっていく。そして、尿道を指でこじあけ、その内側に溜まっている精をちゅるちゅると吸いとる。
「あ、ばか、そこは……出ちゃう!」
 とぽぽぽっ。
「ごばっ」
 那由は全身を二、三度震わせ放尿した。射精のあとで、尿をこらえづらくなっていたのだ。味わったことのないしょっぱさが口の中に広がる。栄一が予想していたよりも勢いはなかったが、断続的なそれはなかなか収まる気配がない。たっぷり十秒は那由の生暖かい排泄物が浴びせられた。精液が尿道に残っていたのか、どこかとろみがある。
 濃厚な味に吐き出そうとするが、口が塞がれていてはそれもかまわなず、飲まざるをえない。胃が、コップに水を注ぐように簡単に那由の出したもので満たされていくのが実感できる。呼吸が出来ず、窒息の恐怖を栄一は覚える。

「げほっ、ごほっ、ごぼっ!」
 栄一が手足をばたつかせる動きが弱くなったのを見て、那由は男性器から栄一を引き剥がしてやる。だが、まだまだポンプの中身は尽きていなかった。一旦出てしまったものはしかたない、那由は状況を楽しむことにしていた。
「全身にかけてあげるよ」
 しょろしょろしょろ。
 栄一の身体を手でくるくると回しながら、黄金色のシャワーを浴びせてやった。丹念に自身の匂いを刻み付けていく。犬がマーキングをするように。背中に、お腹に、血とミルクが垂れているお尻に、頭に、再び顔に。放水がやんだときには、すっかり栄一の全身はおしっこまみれになっていた。那由の巨大な肉柱に後ろの穴と口を犯されただけではなく、外面までをも陵辱されたのだ。だが、那由から放出された尿の温度に、なぜか栄一は安らいでいた。
 那由は栄一を掌から、尿と精液でぐちゃぐちゃになったシーツに降ろす。ベッドに身体を預けぐったりしている栄一の腹は、尿を飲み過ぎてカエルのように膨れている。その左右を、まるで塀のように太ももが囲んでいた。
 栄一が仰向けのまま、上空でにこにこと笑う那由の顔をぼうっと眺めていると、急にその顔が白くぼやけた。めまいかと思ったが、そうではないらしい。自分と同じぐらいの太さだった両側の太ももの壁が、栄一から離れながらどんどん競り上がる。くらくらしながら立ち上がると、今度は足元のシーツの皺がどんどん近づいてくる。地面へと落ちて行くような、覚えのある感覚。視界がゆがむ。

 だんだん視界が明瞭になってくる。栄一は、今度は温かな地面の上に寝かせられていることに気付いた。起き上がってみる。どうやら自分は柵のない肌色の丸みを帯びた橋のような場所にいるらしい。幅は何メートルもあり、落ちることはなさそうだ。橋から遥か下には真っ白な大地が広がっており、それが地平線まで続いている。不可思議な光景だった。
「目が覚めた?」
 まるでコンサートホールに反響しているような声だった。首が痛くなるほどに上を見上げると。那由が笑ってこちらを見下ろしている。だが、距離感がおかしい。まるで何百メートルも離れているかのように、ぼやけている。先ほどまでも那由には見下ろされていたが、ここまで遠いものではなかった。
 栄一は最初、自分が夢を見ているのかとでも思っていた。だが、自分の身体に染み付いた尿の臭いと、じんじんと痛むお尻がそうではないと主張していた。
「ねえ、栄一。今自分がどこにいるかわかってる?」
 首の角度を下へと戻していくと、平らな胸、雪原のように広く白いお腹……そして、自分の立つ場所へ続いていた。
「あ」
 この肉の大地は、那由の股間から生えていた。

「そう。ボクのおちんちんの上だよ。……どう? センチ以下の世界は。うふふっ」
 センチ以下。ミリ。それは人間の大きさを計る単位ではない。あっていいはずがない。那由の言うことが真実なら、栄一の姿は、男性器にくっついてしまった蟻よりも小さい何かでしかないことになる。
「乗って」
 那由は人差し指を栄一の立つすぐ横の空間へと寄せる。それは指であると、栄一は形状からかろうじて認識できていた。指だけで、客船を思わせる膨大な存在であったけれど。
 乗り移れということらしいが、那由にとってはわずかな隙間でも栄一にとっては軽く一メートルになる。
「ねえ、早く」
 栄一が躊躇していると、唐突に空から何か降ってきて、その衝撃で栄一はよろめき地面にキスをする。ロケットミサイルでも落ちてきたのかと思ったそれは、これまた巨大な指の塔だった。磨かれた爪が、青ざめた栄一の表情を姿見のごとくきれいに映している。
 栄一は絶望と憔悴で喉がからからになる。今の自分は、那由が気まぐれを起こし指を少し動かしただけで存在が消滅してしまう程度なのだ。
 那由の命令を無視する選択肢は残されていない。立ち幅跳びの要領で勢いを付け、意を決して飛び移る。あやうく滑り落ちるところを、指紋の凹凸にしがみついて免れる。どうにかよじ登り、指の腹の中央まで進む。那由の指の腹は部屋のように広く、足を滑らせて落ちる危険はないだろう。

「今度はボクのおしりの穴を栄一にあげるよ」
 黒い粒がちゃんと指の上へと移動したことを確認した那由はぐぐ……と後ろへと反り返り、お尻を上へと向ける。そして、栄一を載せているのとは反対側の手を臀部にあてがい、菊門をにちゃあと押し広げる。獲物を待ち焦がれていることを示すように、那由の菊門は腸液の涎をつう、と垂らす。
 指の上から眺める、脚をはしたなく広げた那由の痴態は同性の栄一から見てもこれ以上無く淫靡だった。地平線に広がるのは、山脈のように雄大なニーハイソックスの脚。高層タワーのように高くそびえる肉棒と、その下部にある片方だけでも家のように大きい玉の下、栄一を何十人も飲み込めそうな、巨大な口が広がっていた。これから、栄一はその口に飲み込まれ、那由と一つになるのだ。小人を捕らえたら、決して逃すことはない魔物の口だ。
「今の栄一の大きさなら、お尻の中でも十分息が続くと思うよ、安心して。運が悪いと、明日うんちといっしょに出てくることになるかもしれないけどね」
 栄一の身体が指にくっついたまま、どんどんと赤い洞窟の入口へと近づく。近づくにつれつんとした汗の刺激的な臭い、精液の牡臭さ、そして全身に染み付いたおしっこの香りがどんどん強くなり、渾然一体となりフェロモンとなって栄一へ襲いかかる。栄一は頭がおかしくなりそうだった。実際、栄一の矮小な精神はもう狂っていたのかもしれない。
 そして、那由の菊門は栄一を指ごと飲み込んだ。

「んっ……」
 指が引きぬかれた時、すでにそこには彼の姿はなかった。ひとりになった那由は、脱ぎ捨てていた白のショーツへ足を通し、ほくそ笑む。それは、栄一が万が一括約筋の牢獄を抜けだしたとしても、決して那由からは逃れられないことを意味していた。
「ねえ、栄一。エッチしたし、ボクたち素敵な恋人同士になれるかな。なれると思う?」
 ベッドに身体を投げ出す。そのつもりはないが、もし眠っている間に排泄物に固められてしまったら? そのときはいっしょに出してあげればいいだけだ。小人が案外死ににくいのはもう実験済みなのだし。
 それよりも、腸壁と栄一の極小の身体が癒着してしまわないか心配だった。もしそうなってしまえば、本当の本当に栄一は那由の外へと出られないだろう。
「……ま、いっか」
 それはそれで素敵なことだと、那由は考える。痛みもなく、ゆっくりと栄一が自分の肉体に飲み込まれ、同化させられていく。そんな光景を想像すると、股間に再び反応するものがあった。
「おやすみ、栄一。答えは、出てきたときに聞くよ」
 部屋を消灯し、布団にくるまり、那由は眠りに就く。ふたたび出会うために。

(了)
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