片喰あずみ
血まみれの顔をごしごしと袖で拭うが、服も血まみれなので大して変わらない。
ロージィ
すっかりきれいになっている。戦いなどなかったように。
片喰あずみ
やってみようと思ったけどうまくいかない。さっきまでできてたのに……。
GM
浜辺や丘の上の草木、森の植物が、どこか色あせ始めている。
GM
やがてここも、元のような荒野に戻るのだろう。
片喰あずみ
この国を去る以上は、もはや救世主ですらない。
片喰あずみ
殺して、食らって、壊して、そしてここではないどこかへ行く。
ロージィ
さよなら堕落の国。吸血鬼の許される世界。太陽の覆われた世界。
片喰あずみ
馬鹿なこと、と言われてしまえばそうなのだろう。
片喰あずみ
この船はどこへ行くのか。果たして本当に元の世界へと送り届けてくれるのか。
片喰あずみ
いずれにしろ、きっとここ以上に吸血鬼の──人殺しの生きやすい場所なんてないだろう。
ロージィ
「どうせ吸血鬼になったらその子だって食べたくなっちゃうんだよ~?」
片喰あずみ
「でも、だから帰らないってなるほど殊勝じゃいられねーんだよ」
片喰あずみ
「……会いたいんだよ。それだけの、単純な話だ」
ロージィ
堕落の国にいる吸血鬼は、吸血鬼である以上に救世主だ。
ロージィ
太陽のある世界、昼と夜が隔てられ、責務のない人のいる世界。
ロージィ
その世界にいってはじめて、あなたは本当に吸血鬼になる。
ロージィ
「こーんなかわいい吸血鬼を差し置いて会いたいとか~」
片喰あずみ
「どうせ、人殺しなのは変わらないんだ」
片喰あずみ
「きっと、とうになかったんだ。帰っていい理由なんて」
片喰あずみ
「こうなって、ただそれが分かりやすくなっただけで……」
片喰あずみ
他人の命を奪って自身の糧とする。そんなモノを社会は受け入れない。
片喰あずみ
ならば自分はとっくに異物で、社会の中に居場所なんてない。例え吸血鬼になっていなくとも。
ロージィ
はー、急にやっぱやめたとか言わないかな~言わないな~さっぱりした顔してるもんな~。
ロージィ
たくさんの殺しの中で、罪を罪と私はもう思わないけれど。
ロージィ
月を見るたび、傷つくたび、あるいはその子を殺したりしちゃったりなんだったりして。
片喰あずみ
誰かを殺して、あるいはいつか殺されて。
GM
旅が終わるところが楽園だというのならば、楽園はどこにもなく。
GM
儚き強さを抱えた二人を乗せて、船は果てを目指す。