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片喰あずみ
「…………」
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片喰あずみ
剣から手を離す。
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ロージィ
「ふーーー!」
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ロージィ
伸びをする。
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ロージィ
「勝った勝った~」
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GM
動くものは何もいない。
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GM
あなたたち二人を除いては。
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ロージィ
剣に固めた血を解く。
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片喰あずみ
血まみれの顔をごしごしと袖で拭うが、服も血まみれなので大して変わらない。
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片喰あずみ
「おー……」
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ロージィ
「そういうのは血を操作するんだよ~」
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ロージィ
「ま、がんばって覚えようねえ」
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片喰あずみ
なるほど……。
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ロージィ
すっかりきれいになっている。戦いなどなかったように。
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片喰あずみ
やってみようと思ったけどうまくいかない。さっきまでできてたのに……。
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GM
浜辺や丘の上の草木、森の植物が、どこか色あせ始めている。
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片喰あずみ
諦めて血はそのままにロージィの方へ。
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GM
やがてここも、元のような荒野に戻るのだろう。
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ロージィ
楽園、壊しちゃったねえ。
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GM
しかし、去りゆくものには関係ない話だ。
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ロージィ
「それじゃ、行こっか」
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片喰あずみ
この国を去る以上は、もはや救世主ですらない。
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片喰あずみ
ただ吸血鬼が二人。
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片喰あずみ
「おう」
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GM
港には、すでにあの船が接舷されている。
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片喰あずみ
殺して、食らって、壊して、そしてここではないどこかへ行く。
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ロージィ
手を引いて、駆け足で船に。
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片喰あずみ
飛び乗る。
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ロージィ
さよなら堕落の国。吸血鬼の許される世界。太陽の覆われた世界。
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ロージィ
「どうしてこんな馬鹿なことを?」
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ロージィ
あずみに問う。
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片喰あずみ
馬鹿なこと、と言われてしまえばそうなのだろう。
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片喰あずみ
この船はどこへ行くのか。果たして本当に元の世界へと送り届けてくれるのか。
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片喰あずみ
いずれにしろ、きっとここ以上に吸血鬼の──人殺しの生きやすい場所なんてないだろう。
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ロージィ
「どうせ吸血鬼になったらその子だって食べたくなっちゃうんだよ~?」
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片喰あずみ
「そうかもな」
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片喰あずみ
「でも、だから帰らないってなるほど殊勝じゃいられねーんだよ」
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ロージィ
「あはは」
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ロージィ
嬉しそうに笑う。
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片喰あずみ
「……会いたいんだよ。それだけの、単純な話だ」
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ロージィ
堕落の国にいる吸血鬼は、吸血鬼である以上に救世主だ。
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ロージィ
太陽のある世界、昼と夜が隔てられ、責務のない人のいる世界。
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ロージィ
その世界にいってはじめて、あなたは本当に吸血鬼になる。
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ロージィ
私がそうしたから。
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ロージィ
「こーんなかわいい吸血鬼を差し置いて会いたいとか~」
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片喰あずみ
「なんだ? ヤキモチか?」
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片喰あずみ
「うちの子はもっとかわいいぜ」
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ロージィ
「すっかり開き直っちゃってぇ……」
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ロージィ
あんなにしょんぼりしてたのに。
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片喰あずみ
「……まあ」
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片喰あずみ
「どうせ、人殺しなのは変わらないんだ」
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片喰あずみ
「きっと、とうになかったんだ。帰っていい理由なんて」
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片喰あずみ
「こうなって、ただそれが分かりやすくなっただけで……」
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ロージィ
「そうだねえ」
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ロージィ
すでに渇望のために一人を殺した。
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ロージィ
いずれは罪も擦り切れる。
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片喰あずみ
他人の命を奪って自身の糧とする。そんなモノを社会は受け入れない。
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ロージィ
人間の敵。社会の敵。
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ロージィ
それが当然になる。
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片喰あずみ
ならば自分はとっくに異物で、社会の中に居場所なんてない。例え吸血鬼になっていなくとも。
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ロージィ
はー、急にやっぱやめたとか言わないかな~言わないな~さっぱりした顔してるもんな~。
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ロージィ
まあ、いいけど。
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ロージィ
世界に許されようが、許されまいが。
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ロージィ
たくさんの殺しの中で、罪を罪と私はもう思わないけれど。
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ロージィ
消えない罪一つ。
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ロージィ
あずみは私を許さない。
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ロージィ
月を見るたび、傷つくたび、あるいはその子を殺したりしちゃったりなんだったりして。
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ロージィ
あずみは私を忘れない。
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片喰あずみ
誰かを殺して、あるいはいつか殺されて。
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片喰あずみ
その度に、お前を思い出す。
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片喰あずみ
お前を許さない。
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片喰あずみ
そして誰よりも、自分自身を。
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GM
タラップが畳まれる。
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GM
白い煙を吐きながら、船は港を離れる。
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GM
終わりの音楽のように、汽笛が鳴る。
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GM
旅が終わるところが楽園だというのならば、楽園はどこにもなく。
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GM
儚き強さを抱えた二人を乗せて、船は果てを目指す。
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GM
宝島はもう遠い。
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GM
Dead or AliCe 『宝島』
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GM
おわり
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