GM
あれからしばらくの日が過ぎました。
GM
バスカリオが倒れたというニュースは市井を騒がせ、混乱をもたらしましたが……
GM
虐げられた人々には、概ね好意的に受け入れられたようです。
GM
現在は街の有力者たちが議会を作ってとりあえず街を運営しています。
GM
今後のことはどうなるかわかりませんが、今はとりあえず平和です。
GM
元から、亡者対策を救世主に依存し切るのが、そもそもの過ちだったという意見もあるみたいですね。
GM
閑話休題。
GM
休息を終えたエリーは、旅立つために白霧街の門に来ています。
GM
きっとそれを見送りに、クーレットもいるでしょう。
エリー
「うむ、世話になったな!」
クーレット
「こちらこそ、大変お世話になりました!」
エリー
補給するつもりだったものも手に入り、旅の準備も万端整った。
クーレット
クーレットは細い干し肉のようなものを噛んでいる。バスカリオの指を加工したものだ。
クーレット
あの救世主の肉は両腕分だけいただいて、残りは土に埋めてやった。
クーレット
「エリーさまは、次はどこに行かれるのですか?」
エリー
「南に下ったところに別の街があるらしいからそっちだな」
エリー
「途中で馬車でも見つかれば早いだろうが……」
クーレット
街があるといっても、距離があることはクーレットも理解している。
クーレット
「…………一人で、大丈夫です、か?」
クーレット
確かにエリーは強い。しかし、バスカリオと刃を交えた結果、血を流した姿が脳裏にこびりついている。
エリー
「んん~~?」
エリー
「心配しているのか?クーレット。私はこの街まで一人で来たんだぞ?」
エリー
「……」
クーレット
「なんですかあ……」
エリー
「だが、そうだな……」
エリー
「クーレット、この先もついて来るがよい」
エリー
「私と旅を共にするのだ」
クーレット
「……………」
クーレット
「えええええ!?」
クーレット
「あ、ありがたきお言葉……!!!」
エリー
「何を驚いている。クーレットには私の横で共に考えてもらう必要があるからな」
クーレット
確かにぼくは家族がいないし、一人よりは誰かといたほうが安心する、けど……!
エリー
「これが私の信頼の証だ」
エリー
わはは、と笑う。
クーレット
「…………!」
クーレット
ああ~~~~~、と喜びの涙を流す。
クーレット
でも、この場面に涙はふさわしくない。すぐさま拭って。
クーレット
「へへへ……ぼくを信じてくれて、ありがとうございます!」
クーレット
「ぼくももう少しエリーさまと一緒にいられたらいいなー、って思ってたんです」
クーレット
嬉しそうに蹄がカポカポ鳴る。
クーレット
「それじゃ、これからの二人旅も、頼りにしちゃいますね!」
エリー
「ふふふ、頼もしく思うがいいぞ!」
クーレット
「わーい!」と、無邪気にエリーと手を繋ぐ。
エリー
手を握り返す。その歩みは二人で荒野を行く。
クーレット
その先に何が待ち受けていようとも。
きっと、二人だから進んでいける。
GM
エリー
街を出て幾日。今日も荒野で野営をする。
エリー
クーレットは先に眠っており、エリーは一人焚火を見つめている。
クーレット
スヤスヤ……
エリー
バスカリオを打ち倒し、街を救った。
それはしかし、その後のことを考えない行動であり、その責任を放棄して街を出たともいえる。
エリー
「…………」
GM
> この時点で〈発狂〉しているキャラクターは亡者化(=ロスト)の可能性があります。
GM
> 〈発狂〉しているキャラクターは【猟奇】【才覚】【愛】の能力値からランダムに1つ選び、判定してください。
GM
*亡者化判定をお願いします。
エリー
choice[猟奇,才覚,愛] (choice[猟奇,才覚,愛]) > 愛
エリー
愛か~~~~~
エリー
愛か~~~~~~~
エリー
2d6>=7 (2D6>=7) > 5[1,4] > 5 > 失敗
エリー
「………」
エリー
自分の引き起こした出来事の、その責任をとることもなく。
自分で考え、自分で決めた行動の、その結果は街への裏切りだったのでは?
GM
“救世主なんてね……”
GM
誰かの声が響く。
GM
“クズのやる仕事なんですよ”
GM
“おきれいな顔をして……”
GM
“同じなんですよ”
GM
“あなたも”
GM
“バスカリオ様も”
エリー
考えないようにしていた、目をそらしてきた。
壊れてしまっていた心。
エリー
自分に心酔したクーレットを連れ出して、自分に従わせ。
ただ力を与えてやるばかりで、その実なにも与えてやらないのでは?
エリー
元の世界の頃のように。
堕落の国において”救世主”としてうまれただけで。
エリー
何も変わらない、同じことの繰り返しを続けるだけなのでは?
エリー
その言葉を否定する者はだれもいない。
エリー
クーレットの寝息も、薪のはぜる音もしない。
GM
“それでいいのに”
GM
“この世界で、なにかに責任を取れるものがいるとしたら”
GM
“それは、本当に唯一の救世主だけ……”
エリー
ちがう――
エリー
そう頭を振るい立ち上がる。
エリー
わたしはまだ――
エリー
その体は崩れ、醜く変化する。
エリー
とれるせきにんが――
エリー
快活な声が響いた口からは歪んだうめき声。
エリー
くーれっと。くーれっとくーれっとくーれっと。
エリー
重たく膨れ上がった体をはいずるように動かし。
エリー
元の形もわからない、変形した腕をクーレットへ伸ばす。
エリー
ーーたべよう。
エリー
くーれっとのしあわせのために。
クーレット
「ん………」
クーレット
近くで何かが動く音。
クーレット
深い眠りから目覚めた身体を起こし、外にいるエリーのもとへ。
クーレット
「エリーさま、おはよ……」
クーレット
理解し難い光景に、全身が硬直する。
エリー
クーレットの瞳に映るのは、あの小柄で快活な、自信にあふれた救世主の姿ではない。
エリー
醜く膨張し、その口からはうめき声が漏れ、腕のようなものをクーレットへと伸ばす。
エリー
醜い亡者の姿。
クーレット
「あ、ああ……っ!」
クーレット
起きたらエリーがいるものだと安心しきっていたから、凶器は握っていない。
クーレット
素手の、何一つ傷つけられない身体で、亡者を見つめている。
クーレット
「なに……なんなの……?」
エリー
くーれっと。くーれっと。
クーレット
「エリーさま……エリーさまあ……」
クーレット
え…………?
クーレット
亡者が、ぼくのことを呼んだ。
エリー
ただ一人、目の前にいる末裔が望んでいたことだけが思い出せる。
クーレット
「エリーさま……………な、の…………」
エリー
「くーれっと」
クーレット
「……はい………………」反射的に、亡者の言葉に応える。
クーレット
ぼくと一緒にいて、ぼくの名前を知っている人。それはエリーさましかない。
エリー
歪み、淀んだ声がクーレットの名前を呼ぶ。
クーレット
"あれ"がエリーさまだったとしたら、信じたくない。
エリー
緩慢な腕をクーレットへと伸ばす。
クーレット
「いやだ、いやだ! エリーさまを返してよ!」
クーレット
一歩ずつ後ずさるも、それは死ぬまでの時間を伸ばしているだけに過ぎない。
クーレット
もう一度、亡者を見つめる。
クーレット
「エリー、さま」
エリー
伸ばす腕が止まる
クーレット
「エリーさま、なの?」
エリー
「くーれっと」
クーレット
「………………」
クーレット
これ以上質問しても、無駄だ、と感じてしまった。
エリー
亡者は何も答えない。答えられるだけものを、もう持っていない。
クーレット
ならば、ぼくは。
クーレット
足を止め、涙を拭い、亡者に話しかける。
クーレット
「エリーさま」
クーレット
「あなたがどんな姿になろうとも」
クーレット
「ぼくがそう思う限り、あなたは、ぼくの命の恩人です」
エリー
「…………」
エリー
亡者はなにも答えない。
ただその手をクーレットに伸ばしたまま。
クーレット
亡者の手を、避けようともしない。
逆に、受け入れようとしている。
エリー
クーレットの体を掴む。
クーレット
「ぼくの願いを叶えてください」
クーレット
掴まれたまま両腕を差し出し、亡者に向ける。
クーレット
角から蹄まで、偽の甲羅ごと。
エリー
手を握るように。
クーレット
「あなたに食べられれば、ぼくは幸せです」
クーレット
迷いのない、しっかりとした意志を告げる。
エリー
「……くーれっと」
エリー
亡者が一言呟いた。
クーレット
「はい」
クーレット
微笑む。
エリー
その瞳が最期に映すのは醜悪な亡者の口内。
エリー
かつて映した、聡明で快活な救世主の成れの果て。
クーレット
それでもいい。それでいい。
クーレット
だって代用ウミガメは、食べられるために存在しているのだから。
エリー
――いただきます。
クーレット
一口で、噛み砕かれる。
クーレット
その痛みが身体に走る前に、クーレットの意識は失われた。
GM
GM
檻の中から檻の中へ。
GM
夢の中から夢の中へ。
GM
不思議から不思議へと。
GM
舞台は巡り、この世界は続いていく。
GM
しかしこの二人の物語はここまで。
GM
Dead or AliCe
『Scum of Alice』

          おわり
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